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『演じられた近代』

―国民の身体とパフォーマンス―
兵藤裕己 著

〈国民〉の身体レベルにおける、「近代」受容について論じた一冊。

中心となるのは、提示される理念とのすれ違いを重ねながら川上音二郎の新演劇に陶酔してゆく観客の身体である。そこには勿論、自由民権という運動があるのだが、民謡・はやり唄などの在来のリズムと西洋音楽の拍(タクト)の接続という、近代につくられていく「日本的」感性が作用していることをも指摘し、庶民大衆の熱狂的な身体を解き明かしてゆく。

近代演劇史であると同時に、口承文芸研究という学問が輪郭を整えつつある時期における、「かたる」身体、「うたう」身体、の見落とすことのできない一面の開示でもある。唱歌や軍歌に結実した「日本的」感性は、「総動員」の一翼を担う身体の成立でもあったと著者は指摘する。学問として「かたる」「うたう」」ことを扱う者にとっては、極めて今日的な問題でもあるはずだ。

(岩波書店/本体三〇〇〇円)

2007/1/22 掲載 : 野村典彦