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『江戸東京の噂話』

野村純一 著

本書は平成十二年九月から約一年間にわたり読売新聞党内版に掲載された「はなしの民俗学」を土台として三編を加え再構成された内容となっている。江戸・東京の噂話に端を発し、その源流となる神話・説話や昔話、過去に書き留められた巷説等を挙げ、さらにその噂話の類型や変容について言及している。祝儀物としての桃太郎話、不幸な境遇の子供の約束された再生、時代や地域を越えて再生産される巷の噂、日常世界に立ち現れ都市部に出現する妖怪、この世と異界を繋ぐ「遊び」の作法、呪物としての鼠と猫、都市伝説の先駆けである「狸の偽汽車」、と多岐に渡り論じている。しかし、一貫して、その噂話はいかに江戸・東京もしくは地方の、その時代時代の世相を反映し、実際の人々の生活環境に根を張っていたのかを見据える。個々の話の構造は決して突飛なものでなく伝統的なスタイルに裏打ちされ、人々の潜在意識の底にある民俗的意識に基づいていたかが指摘されている。

(大修館書店/本体一八〇〇円)

2007/1/22 掲載 : 神田朝美