第61回研究例会
☐日時: 2011年7月23日(土) 14時~17時
☐会場: 白百合女子大学 本館地下9012教室
京王線新宿駅より25分、仙川駅下車徒歩10分
地下鉄都営新宿線・笹塚駅乗換、仙川駅下車
☐テーマ:語りの実践と「つながり」の創出
-まちづくり・記憶・文化資源-
☐パネリスト:
矢野敬一(静岡大学教育学部)
小売業の外部性としての語りとまちづくり
―新潟県村上市「町屋の人形さま巡り」を事例として―
金子淳(静岡大学生涯教育学習センター)
多摩ニュータウンにおける語りとその断層
司会:重信幸彦(例会委員)
☐趣旨
文化資源化という問いは、様々な文化資源に対して個々人が直接的・能動的・選択的にアクセス可能だという社会状況を背景として、文化が資源となっていく動態に着目するものである。それに対して口承文芸研究でも言語使用の「場」に対して関心を払い、社会関係を作り上げていくダイナミズムに着目しようという視点もある。そこでは語り(ナラティブ)は日常生活に対して解釈し意味と価値を与え、一つのリアリティを生み出していく力として位置付けられている。「声」の生み出される「場」や語られる「言葉」の背景がここでは問われているのだ。それは見方を変えれば、口承文芸をめぐる文化がいかに資源として能動的・選択的に作動させられていくのか、その動態をとらえるという問題設定としても位置付けられる。
ここに文化資源化という問いと口承文芸研究とが切り結ぶ接点がある。こうした立場に立った時、従来の枠組みに収まりきらない多様な「声」が、文化資源化の問題として視野に入って来るだろう。
☐概要
☐矢野敬一「小売業の外部性としての語りとまちづくり」
今回の報告では新潟県村上市でのまちづくりのイベント、町屋の人形さま巡りの場でなされている語りを事例とする。三月の一カ月にわたって村上市の旧町人地区の各商店では、町屋の奥に位置する茶の間に多様な人形を飾っては訪れる人に見てもらうイベントを、ここ10年以上、続けている。そこでなされている人形や町屋についての様々な語りは、町屋の人形さま巡りを特徴づける大きなポイントとなっており、多くの人々を楽しませている。まちづくりの具体的な「場」である人形さま巡りではどのような語りがなされているのか、そしてそれはどのような背景のもとに立ちあげられ、どのようなリアリティを生み出しているかという問題を、商業研究の成果なども踏まえて報告する。
☐金子淳「多摩ニュータウンにおける語りとその断層」
郊外ニュータウンにおいては、しばしば開発前と開発後の歴史の断絶が指摘される。東京西郊の多摩ニュータウンにおいても、その圧倒的な規模ゆえに歴史の「空白」が強調され、その「空白」以後の再生に照準した議論が多い。ところが実際には、単なる「空白」としてではなく、新旧住民それぞれの立場で、個々の経験に基づきながら開発前/開発後の連続性も意識されていた。この「空白」を埋めようとする語りは、新旧住民の間で隔たりがあるだけでなく、開発への向き合い方やその後の経験によっても大きく異なっている。こうした多様な語りは、開発前/開発後という歴史の断層や連続性をめぐる認識とどのように関わっているのか、いくつかの事例をもとに考えてみたい。