『神話と古代文化』
古賀 登 著
中国古代史を専攻される著者の『四川と長江文明』に次ぐ御著作。神話は生産と生活文化の所産であるとの視座から、中国史や天文学、暦学、八卦方位、五行と易等の成果に加え、日中の幅広い文献を渉猟し、日中の現地調査等も通じて日本神話を解明し復元される。
例えば、天石屋籠神話は夏至を中心とした一連の祭りと年中行事を神話化したものであるとか、八俣達呂智は古志の山地焼畑農耕民であり、水田の精霊である櫛名田比売は蛇が起こすとされる地すべりを怖がっていたとか、猿田彦神は塩土老翁と同神の製塩の神、山の神で、稲羽の素菟でもあるとか、故に塩を焼く山幸彦は塩土老翁の予祝を得て祭祀権を握り、天つ日嗣となったとか等。啓発的である。
長江上・中流域の古文化との密な交流も前著の御主旨と同様に表明されていて、御論の奥行きは深い、従来の多様な学説を丹念に紹介した上で厖大な史料を証左として展開される神話論は、豊かで高度な古代文化=社会の絵巻を観る思いに浸る。神話研究を志す者には刮目すべき大著である。
2007/1/21 掲載 : 百田弥栄子