『「遠野物語」と神々の世界』
遠野物語研究所 編
『遠野物語』に修験道がもたらされる以前の遠野の神々を見出すことはき出るのか。本書は、この問いを中心に開かれたゼミナールの講義録である。
この問いのため、前半では石井正己氏が、吉本隆明氏の『共同幻想論』を中心とした『遠野物語』論とその享受のされ方を整理し、三浦祐之氏が『古事記』やその他の起源神話のなかに『遠野物語』第一話や『遠野物語拾遺』第一三八話を並べ、その伝承の古代性を明らかにしていった。
後半では、千葉博氏が、遠野における神楽の変遷を整理した後、門屋光昭氏が東北全体に視野を広げ、東北における神楽を整理した。
これらの論をふまえ、本書では、『遠野物語』を中世以前にさかのぼらせることができたのは唯一、吉本隆明氏だとする。
本書でも「吉本が孤立している」と指摘されているが、今、吉本氏を正面から引き受け、乗り越えなければならない時期に来ているのだろう。
(遠野物語研究所/一〇〇〇円)
2007/1/22 掲載 : 青木俊明