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『奥熊野のはなし』

―須崎満子媼の語る三〇〇話―
国学院大学説話研究所編集協力
梶晴美 編著

編集には、語り手がいかに話を記憶・想起するかを論じた「昔話の語り手への試論-三重県熊野市の須崎満子媼の場合-」(『日本民俗学』一六七頁)がある。その採訪資料が増補・公開された。媼の話がどんな質問に促され、どんな連想で次に続いたか。問題は聞き手論をも包含し、調査技術論を超えた「語りの場」の問題を提起する。その具体的な記述法を模索した試みである。一方、「一話」に注目する従来型の問題関心にも本書は有益である。たとえば、話番号62「『みたみた』言う嫁さん」は「屁ひり嫁」の所望による話であることから下半身にまつわる笑話だとわかる。また話番号81「牛若」は「伯母峰」の言葉に促され、「神武天皇の漂着」へと続くことによって、媼のいう「吉野山」でなく大台ケ原だとわかる。この誤解から、独特の「吉野」像を探ることも可能だろう。多くの困難を越えての刊行だが、収録話数等の明記がないこと、表と凡例が離れていること、本文・表の一部に入力ミスがあることは残念。

(自刊/〒二七五-〇〇一二千葉県習志野市本大久保五-五-七・梶/一五〇〇円)

2007/1/22 掲載 : 齊藤純