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『ローカル歌謡の人類学』

―パプアニューギニア都市周辺村落における現代音楽の聴取と民衆意識―
諏訪淳一郎 著

PNG東岸マダン市周辺村落での、外来音楽の受容とローカルな音楽伝統の創出に関する音楽民族誌。一九九九年提出の学位論文(英文、筑波大学)にもとづく。本書が対象とする「ロコル歌謡」とは、第二次大戦中に持ち込まれ国民文化として独自な発展を遂げたギターバンド音楽のための、創作歌謡をさす。歌詞は村落レベルの在来言語を主体としている。それらは「伝統かポップか」という二項対立的な分類を超えて、現地の人々に深い実感を伴って培われている「ルーツ音楽」であると位置づける。人々の心情と歌や音響が結びつく表現の極致は、葬送の悲歌にみいだされる。最新の聴覚認知理論と丹念なフィールドワークが結び合わされ、深い共感とともに「ロコル歌謡」の意味が描き出される。流行のポップ歌謡が実は民俗的な深い根を持つことを示した好著である。
(弘前大学出版会/本体四二〇〇円)

2007/1/22 掲載 : 酒井正子