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『兵法秘術一巻書・●●(※)内傳金烏玉兎集・職人由来書』

日本古典偽書叢刊(第三巻)
責任編集 深沢徹

偽物と言うタイトルのもとに収められているのは、存在や所持することそれ自体が何がしかの意味を持つ、とされてきた書き物たちである。源義経にまつわる兵法の巻物、陰陽道の神話、職人たちの由来書など、いずれも読み難かった資料ばかりである。その多くは近代的な処断によれば、嘘や偽りに満ちたものである。しかし、その存在は確かなのであり、こうした書き物をめぐって多くの伝承が紡ぎだされてきたことも、また事実である。文字には真実しか宿らない、という信仰はいささか素朴に過ぎることがようやく気づかれてきた。歴史や文学の分厚い蓄積の中から存在を希求されてきたこうした書物群は、実は伝承や口承文芸の世界に意外に近く、またそこから光を当てることによって新しい貌を見せてくれる。解説も充実しており、この書物から新たな伝承史研究が生まれていくだろうという期待を持つ。もちろん真偽とうった二分法を越えていくことも期待される。併せて久野俊彦・時枝務編『偽文書学入門』(柏書房)もお薦めしたい。

(現代史潮新社/本体三五〇〇円)


※●は常用漢字外
2007/1/22 掲載 : 小池淳一